吉田修一「国宝」を読んで

2025-08-28

京都を拠点とする当事務所は、再生可能エネルギーの分野に加え、文化芸術を支える法務にも注力しています。

今日は、最近読んだ、話題の映画「国宝」の原作本を取り上げてみたいと思います。

 

映画のすばらしさは今更私が語るまでもないです。

好みはあると思いますが、細部の作り込みが実に見事で。

弁護士のドラマを見ていても、おもしろいと思うドラマはやはりきちんと取材をしていると感じるのですが、それと同じで、おそらくかなり時間をかけて取材したのではないかと思います。映画を見たあと、家にあった雑誌「和楽」の仁左衛門・玉三郎特集を引っ張り出して読んでいたら、その楽屋の写真が映画の世界そのままでした(あ、逆ですね)。

 

というわけで、原作本も楽しみにしていたのですが、期待を裏切らないおもしろさでした。

舞台の口上のような、「この日は朝から~でございまして」といった、今にもお囃子が聞こえてきそうな文体で話が進んでいきます。

この特徴的な語り口で最後まで飽きさせずぐいぐい話を引っ張る力技。

 

特筆すべきは、映画では一瞬出てきただけだった「徳次」という人物が、原作では主役級に重要な役割を果たしていることです。

もし私が「国宝」の映画化にあたり脚本を任されたとして、この「徳次」をばっさり切る勇気はとてもありません。

原作の「徳次」はさまざまな名言を述べますが、それが映画では春江や綾乃ら、複数の登場人物のセリフに振り分けられています。

映画で「徳次」を描いたら、ただでさえ長いと言われる上演時間がそれこそさらに2時間は伸びそうで、「徳次」を切るというのは脚色にあたっての大英断であったと同時に、原作を読む楽しさを残してくれたと思います。

 

ところで、人間を「国宝」と認定する制度は日本独特で、諸外国にも驚かれ羨まれる制度だそうです。以前、それこそ人間国宝となっている歌舞伎役者さんを乗せたことがあるというタクシーの運転手さんにお会いしたことがあって、「国宝を見ることはあっても、まさか国宝を乗せて走るとは……!」と語っておられ、忘れられない体験だったそうです。

 

映画「国宝」は、今後フランス、スイス、オランダ、韓国、香港、台湾などの9の国と地域で公開が決定しているそうです。

国宝、そして歌舞伎・・・日本の文化やその継承制度がどのように世界の目に映るのか、楽しみです。

 

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